広島が福岡に完敗。混沌とするJ1昇格争い。
2003Ｊリーグ　ディビジョン２　第39節　サンフレッチェ広島vs.アビスパ福岡

2003年10月18日（土）15:04キックオフ　広島ビッグアーチ　観衆：11,246人　天候：晴
試合結果／サンフレッチェ広島０−２アビスパ福岡（前２−０、後０−０）
得点経過／［福岡］ベンチーニョ（23分）、宮崎（44分）


取材・文／中倉一志

　広島ビッグアーチに紫色のレプリカユニフォームを身につけたサポーターが続々と駆けつけた。その数11246人。この日に開催されるJ2最高の有料入場者数を数えた。首位を行く新潟に勝ち点差２の２位につける広島。一方、広島に勝ち点差２で３位につける川崎Ｆとは最終戦で直接対決が待っている。熾烈を極めるJ1昇格争い。いよいよ正念場を迎えた昇格レースを総力を挙げて戦いたい。誰もがそんな思いを胸にスタジアムに駆けつけていた。

　数だけなら百数十名程度だろうか。しかし、熱い思いなら福岡サポーターも負けてはいない。来シーズンのJ1昇格の夢は絶たれた。しかし、「来シーズンの戦いはすでに始まっている」（松田監督）と、前節の試合終了後の記者会見で指揮官が口にした言葉は、選手、球団関係者、サポーターの共通する思い。そのために掲げた「第４クールを無敗で」という目標。アウェイの地でJ2の強豪広島を破らなければ先へいけない。こちらも負けられない。

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　立ち上がり、ホームの広島はやや低い位置で構える。「ブロックは多少低めで、相手を少し来させて、そこから早い攻撃に持って行きたかった、前を向いてボールを奪いたかったということ」とは小野監督（広島）。しかし、素早い出足でプレッシャーをかけてくる福岡に押し込まれて、広島の両サイドは前を向けない。逆に当然のように高い位置で前を向いてプレーする宮崎と古賀。序盤戦のペースは福岡が握る。

　それにしても広島の動きは重い。これがJ1昇格争いを戦うプレッシャーなのだろうか。福岡ボールの時は両WBの服部、松下は最終ラインに加わって５バックに。マイボールになると前へ出ようと高いポジションへ移動していくのだが、中盤のプレス合戦に負けてボールがサイドへ出て行かない。やがて劣勢に追い込まれては後方に押し込まれる。この悪循環から広島は抜け出せない。時折、サンパイオ、マルセロが鋭い動きを見せるものの、それも単発でしかない。

　低く構え、攻撃はロングボールを蹴るだけの広島。そんな広島に対し、福岡はいつも通りに試合を進めていく。ベンチーニョを起点にボールを左右に大きく動かして、宮崎、古賀がサイドから駆け上がる。守りを固める広島のサイドを崩せなくても、慌てずに同じパターンを繰り返してほころびを探す。何も急ぐ必要は少しもない。このまま自分たちのサッカーを続ければ必ずゴールが生まれる。そんな自信のようなものが伝わってくる。

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　試合が動いたのは23分、決めたのは福岡だ。左サイドの僅かなスペースをついて駆け上がったアレックスが大きくサイドチェンジ。それを右サイドに流れた林がフリーで受けると、狙い済ましてクロスボールを送る。中央で待つのはベンチーニョ。広島のCBの真中に入り込んでフリーでヘディングシュートを決めた。その後もリズムは福岡。そして44分、原田、古賀とつないで左サイドを崩した福岡は、古賀の折り返しに宮崎が頭から飛び込んで２−０。試合の流れを完全に福岡のものにした。

　後半に入ると、広島は両WBを高目の位置にあげ攻撃を開始する。しかし、福岡の守備は堅い。攻め込まれても最終ラインを高い位置でキープ。クリアボールの後はきちんとラインを上げて広島に二次攻撃を許さない。右サイドを崩されても中央で待つ藏田と千代反田が高い集中力を発揮してシュートを打たせない。53分には、水谷の不用意な飛び出しから無人のゴールにマルセロがシュートを放ったが、これは藏田が身を呈してはじき返した。

　広島は68分、松下を下げて眞中を投入。システムを３−４−３に代えて最後の攻撃に出る。しかし、これは福岡にとって却って好都合だった。森�ｱ浩を右に、服部を左に大きく開いた広島の中盤には２人しか選手がいない。60分以降、やや押し込まれる時間帯が増えはじめていた福岡が、このスペースを利用することで再び前へ出ることが可能になったからだ。後は落ち着いて試合をコントロールするだけ。福岡は４分間のロスタイムも危なげなく時間を使って試合を終えた。

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　記者会見場に姿を現した小野監督は努めて冷静に試合を振り返った。「ここからが本当に勝負どころ。自分たちのサッカーを貫いて、最後はJ1昇格という目標をしっかり掴めるように頑張っていきたい」。ここまできたら新しいことに手を出しても墓穴を掘るだけ。今まで積み重ねてきたものをどれだけ信じられるかにJ1昇格がかかっている。昇格争いは首位の新潟から３位の広島までそれぞれ勝ち点１差。どのチームにもアドバンテージはなくなった。どれだけ強い気持ちで戦えるか、それが最後の鍵になる。

「どういうふうにしていけば勝つ確率が上がってくるかということを、少しずつ自分たちの物にしている」（松田監督）。その言葉通り、福岡の戦いは自信に満ち溢れていた。狙いとするサイドアタックから挙げた２得点。早いプレッシングで広島に反撃の糸口を与えなかった中盤。そして、高い集中力で広島FWに決定的な仕事をさせなかった最終ライン。広島に与えたチャンスらしいチャンスはわずかに２度。文句のつけようのない完勝だった。残り試合は５つ。「第４クールを無敗で」を合言葉に福岡のチャレンジは続く。

●	松田監督（福岡）記者会見
●	小野監督（広島）記者会見