魅せたブラジルコンビ。値千金の２発でＦＣ東京を下す。
2005Ｊリーグ　ディビジョン１　第９節　大分トリニータvs. ＦＣ東京

2005年5月1日（日）14:03キックオフ　大分スポーツ公園総合競技場　観衆：26,218人　天候：屋内
試合結果／大分トリニータ２−１ＦＣ東京（前０−０、後２−１）
得点経過／［大分］マグノ アウベス（71分）、ドド（80分）、［FC東京］栗澤（83分）


取材・文／中倉一志

　電光石火の一発だった。71分、中央でボールを受けたマグノ アウベスからドドへ。ドドはトップスピードに乗ってドリブルでゴールを目指す。そして、ドドの放ったシュートが追走するマグノ アウベスの前にこぼれた。26,218人の目が１点に注がれる。そんな大観衆の思いの全てをぶつけるようにマグノ アウベスが渾身の力を込めて右足を振り抜いた。大きく揺れるゴールネット。次の瞬間、ビッグアイに大歓声が巻き起こった。待ちに待った大分のゴール。マグノ アウベスは一直線にサポーターの待つゴール裏へ走った。

　追加点は９分後。マグノ アウベス、ドド、そしてマグノ アウベスと２人でパス交換をして中央を突破。そしてマグノ アウベスからのラストパスを受けたドドが大きな切り返しでＤＦをかわしてＧＫと１対１に。最後は落ち着き払ってゴール右すみにシュートを叩き込んだ。「チーム全員ががんばってくれたおかげ。これからもゴールを決めてがんばりたい」とはドド。「がんばったのはベンチ入りを含めた16人。ヒーローは選手全員」とマグノ アウベスも全員で勝ち取った勝利であることを強調した。しっかり守って少ないチャンスを生かす、狙い通りの勝利だった。

---

　この日、大分は中盤の布陣を変えてきた。ダブルボランチには長身のパトリックと小森田を並べ、右に吉田、左に阿部が構える。連戦が続く中でＭＦの負担を減らすことと、しっかりと守りきることが狙いだ。一方、４連敗中のＦＣ東京の狙いは「右からは加地と石川、左からは鈴木を絡ませて、ダニーロとルーカスを前線においてグラウンドを広く使う」こと。積極的にボールを高い位置へ預けて、後ろからフォローしてゴールを目指す。

　立ち上がりのリズムはＦＣ東京。ボールも人も動くサッカーで大分陣内へと攻め込んでいく。最初の決定機は６分、戸田からのマイナスのクロスに石川がフリーで右足を一閃。鋭いシュートがクロスバーを叩いた。その後も右サイドの石川、加地を中心に攻撃を組み立てるＦＣ東京はいくつものチャンスを作り出していく。しかし、ゴールが生まれない。「あそこを決めきれないのが今のうちの課題」（原監督・ＦＣ東京）。ボールは支配しているものの、主導権を握りきれないままに時間が過ぎていく。

　迎え撃つ大分は、いくつかのピンチを凌ぎながら、今ひとつリズムを掴みきれないＦＣ東京に対してカウンターのチャンスを窺いながら試合を進めていく。チャンスらしいチャンスはほとんど作れないが、まずはしっかりと守りきるのが大前提。どちらのペースとも言えない膠着状態は、むしろ歓迎するところだ。得点を与えなければ、いつかは必ずチャンスがめぐってくるのがサッカーというスポーツ。その機会を見逃さないように、慎重にゲームを進めていく。そして０−０のまま試合は前半を終えた。

---

　後半に入ると、大分は吉田と阿部の位置をチェンジ。加地に吉田をぶつけて相手の右サイドの攻撃を封じようという狙いだ。そして、「チャンスは必ず来る。90分間戦おう」と皇甫官監督は選手たちをピッチに送り出す。対するFC東京はダニーロの位置を少し下げた。ボールに絡むことが出来ないダニーロにボールを受ける仕事をさせるためだ。しかし、FC東京は流れを変えられない。むしろ、大分が両サイドに大きくボールを配れるようになったことで、FC東京の優位性は徐々に消えていく。

　そうは言っても、大分の基本はリアクションサッカー。それほど前がかりになるわけではなく、相変わらず膠着着状態が続いていく。しかし、それも大分の思惑通り。そして71分、冒頭の大分のゴールシーンが生まれる。このゴールは大分が後半に放った初めてのシュート。奪ったボールを素早く前に運んで、チャンスを確実にゴールに結びつけた。この狙い通りのゴールはチームに勢いを与え、全く同じような展開から２点目を追加。これで事実上の勝負は決まった。

　FC東京は２失点目を喫した直後の83分、栗澤が左サイドからのFKを直接決めて反撃の狼煙を上げる。そして、このゴールを合図に前がかりになって大分を押し込んだ。しかし、４連敗中というチーム事情が影響しているのか、いまひとつ迫力に欠け、20000人を超すサポーターの大声援を受ける大分の粘り強い守備を崩すことが出来なかった。そして大分は89分、マグノ アウベスを下げて三木を投入。DFライン中央に入れて最終ラインを５人にして３分間のロスタイムを逃げ切った。

---

「サッカーの試合はいろんなことが起こる。その中で攻守にわたってチームの戦術を、どれだけ崩せずにやれるかがポイント。選手全員が我々の準備した戦術をしっかりと守ってくれたから今日の勝利がある」（皇甫官監督）。決して洗練された戦い方ではなかった。どちらかといえば不器用な戦いだったかもしれない。しかし、全員が勝利を目指して約束事を守り通し、何よりの薬である勝ち点３を手に入れた。「我々はもっと高いレベルのサッカーがしたい。これを続けていけば高いレベルにいけると思う」と皇甫官監督は語った。

　FC東京は怪我人を抱えていることに加え、この試合でも鈴木とルーカスが怪我のために途中交代。戦術的な采配を振るえなかったことも試合の流れを変えられないことにつながった。決してチャンスが作れていないわけではないが、微妙にチームの歯車が狂っているように見える。しかし、試合はすぐにやってくる。月並みな言い方だが、敗戦のムードを次に引きずらないことがまずは大切だろう。「上手くいかない流れを何とか全員の力で乗り越えていかないといけない」。原監督は、そういって記者会見を締めくくった。