良薬、口に苦し。雨中に学んだ五輪代表。
KIRIN WORLD CHALLENGE キリンチャレンジカップ2003　U-22日本代表vs.U-22韓国代表

2003年７月23日（水）19:03キックオフ　国立霞ヶ丘陸上競技場　観衆：38,058人　天候：雨
試合結果／日本代表１−１韓国代表（前１−１、後０−０）
得点経過／［韓国］チェ・テウク（５分）、［日本］オウンゴール（30分）


取材・文／西森彰

　悪天候には無抵抗の国立霞ヶ丘陸上競技場には雨雲が容赦なく襲来した。観客は仕方なくゲート裏でレインコートやポンチョを着込み、深呼吸の後に自分の座席へ向かう。ゴール裏ではやけくそになったかのように、自らの士気を盛り上げる日本のファンと韓国ファンの塊の間にセーフティーゾーンが設けられていた。

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　日本のシステムは３−４−１−２。トップ下に京都パープルサンガの松井大輔が入り、ジュビロ磐田の前田遼一、セレッソ大阪の大久保嘉人の２トップ。２トップは前線に張りつづけるわけではなく、上下動を繰り返しながら、スペースを狙ってはいるものの、充分なチャンスボールを引き出すことができない。それは、韓国の強烈なプレッシングが最終ラインをも脅かしていたからだ。

　３−６−１のような形で立ちあがった韓国は、最初の５分間の小競り合いで日本の力を見切ったかのように、チェ・テウクとチョン・ジェウンの両ウイングが３トップ気味に高い位置まで張りだす。そのまま捨て置けば、３人で構成する日本の最終ラインは同数のマッチアップにさらされる。石川直宏、根本裕一が３バックをフォローするために退くと、ここにサイドハーフのチェ・ウォングォンとキム・ドンジンが進出する。

　両サイドが自陣深くまで追い込まれた日本は、阿部勇樹、鈴木啓太のダブルボランチが４枚の韓国ミッドフィルダーに囲まれて自由を失い、ボールを前につなぐことすらできない。クリアボールをほとんど拾われる状況に、前田、松井といった前線のプレイヤーが引いて中継点になろうとする。当然、韓国はキャプテンのチョ・ビョングッの指揮によってバックラインを高くコントロールする。雨が重たく感じられ始めた。

　自分たちのホームでハーフコートゲームを演じられる、日本にとって屈辱的なゲーム展開が続く。15分過ぎからは韓国選手の放つシュートが日本のゴールを脅かし始める。そして22分、青木剛の致命的なパスミスを攫ったチェ・テウクがドリブルで持ち込み強烈なシュート。降り続く雨の影響が大きかったのか、それともボールがDFのブラインドから飛び出してきたのか、GKの川島永嗣はこのシュートを防ぎきれず、韓国に先制点を奪われた。

　あれだけ長い間、自陣深くまでボールを持ち込まれ、波状攻撃を受けていては何も起きないほうがおかしい。この痛撃は青木が犯した偶発的なミスが起点になってはいたが、為す術なかった日本にとっては必然とも思える失点だった。ところが、さらに一方的な韓国ペースになると思われたこのゲームには、意外な展開が待ち受けていた。

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　27分、松井とのコンビネーションで右サイドを抜けた石川がペナルティボックス右で倒され、フリーキックのチャンスを得る。キッカーは根本。根本がクロスを２度入れては、その都度韓国のディフェンスに弾き返されたが、これを三田光がフォロー。根本と入れ替わって左サイドに流れていた石川にスルーパスを送った。石川は左からペナルティボックスに侵入する。

　石川がルックアップしたペナルティエリア中央には、セットプレイからの流れで敵味方の選手が揃っていた。雨というコンディションも考えた石川は、左足で強烈なシュート性のボールをゴール前に送る。これが韓国ディフェンダーのチョ・ビョングッのクリアミスを誘い、何とオウンゴール。

　チョ・ビョングッはソウルでのＡ代表戦に続く、２度目の痛いミス。悔しさのあまり、ピッチを両手で激しく叩いてのた打ち回った。逆に息を吹き返した日本はキャプテンのミスで士気が下がった韓国を攻めたて、36分、再び松井と石川が右サイドを攻略。鈴木の折り返しを大久保がクロスバー直撃のシュートで韓国の肝を冷やす。

　ハーフタイムを挟んで、自軍の左サイドからチャンスを作られた韓国は、41分から途中出場したチェ・ソングッに石川の裏を突かせて逆にこれを引っ張り返す。主導権を奪い返した韓国に対して、日本も散発的に反撃を行ない、後半の45分はいくつかの決定機を作り合って互角に近い戦いで試合終了。１−１。たったひとつのプレイが日本チームを一方的な敗戦から救い上げた。

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「大人と子供」。川淵三郎キャプテンの言葉を持ち出すまでもない。引き分けたとはいえ、どちらのチームの成熟度が高かったかは一目瞭然だった。U-22韓国代表チームは伝統的な１対１の強さを受け継ぎながら、オートマティックな動きを身につけている。この日のメンバーにイ・チョンスとパク・チソンが加わるのだ。弱気と言われようと最終予選で同組とならないことを願う。たった数ヶ月で追いつけるとは思えない程の差が、彼らとの間にはありそうだから。

　そして日本。1stステージ終盤の心身ともに苦しい時期の開催となった日程上の問題、そして相手に利する気象条件。いくつかの不利は存在しただろうが、相手のメンバー構成などを考えれば、決して言い訳にはならない。個々の体力・フィジカルだけならまだしも、前線からのチェイシング、中盤の囲い込みなど、日本の特長である組織力においても劣っていたことは大きな問題だ。

　九割方の負けゲームをドローに持ち込んだ勝負強さは評価できる。しかし、前線に似たようなタイプの選手が揃い、攻撃のバリエーションに乏しそうな点が不安だ。フィリップ・トルシエ監督がベンチで寝ていても予選を突破したと思われる前回のチームと比べるとまだまだ。最終予選に向けて、この日の苦戦を良き糧にしてほしい。