大宮アルディージャ　サポーター通信　〜埋まった１ピース 　レポート／OrageSmile

　私の前の席で大宮のＴシャツを着ていた少年は、試合に興奮するあまり何度も立ち上がったままボールをみつめていて、そのたびに一緒にきた父親に座るよう促されていた。それだけこの試合、大宮は数多くのチャンスを作っていたのだ。そして得点を挙げたのは、決定力不足というレッテルを剥がすためにシーズン途中から大宮に加入してきた男、FWトゥット。我々ファンやサポーター、そして本人が待ち望んでいた得点で、我が大宮アルディージャは３連勝を飾った。

　この試合も前節と同じく、トゥットとバレーの２トップが先発した。「徐々にチームにもフィットしているし体もフィットしてきた」（試合後の会見より）と三浦監督が語っている通り、加入後即出場した５月30日の鳥栖戦よりも運動量は増えスピードも出てきたし、前線からのチェイシングもしっかりこなしていた。何よりバレーやMF安藤正裕などまわりの選手とのコンビネーションがスムーズになり、パスを繋げるようになった。試合中でもパスが合わなかったときは身振り手振りで自分の意図を伝え、自分のプレーを相手にわかってもらおうとする意識が見える。

　対戦相手の湘南は守備時にはトゥットにDF北出勉、バレーにMF村山祐介をマンツーマンで張りつけ、後ろでDF浮氣哲郎がスイーパーとして１枚余る布陣を引いてきた。しかしこのディフェンスはあまり上手く機能しない。１対１で後手を踏む場面が多く、また２トップがポジションチェンジを繰り返して左右へ流れるため、最終ラインが混乱していた。マンツーマンは相手をしっかり抑えることができればいいのだが、この試合のように１対１で抜かれたりすると独走を許してしまう。トゥットやバレーのスピードや技術に、彼らはついていけなかった。

　先制点は記録はオウンゴールとはいえ、プレーの流れ上ペナルティエリア内でトゥットと１対１になった村山が、フェイントで体勢を崩されてシュートコースを作られたことが大きい。２点目は左サイドで１度ボールを触ってから逆サイドへ逃げていく動きをしたトゥットに、DFは誰もついていなかった。得点シーン以外にも、スライディングで止めようとしたのにフェイントでかわされるシーンや、簡単に縦へ抜け出されるシーンなどが多くあり、逆にバレーやトゥットはやりやすかったのではないだろうか。

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　個人的観測で申し訳ないのだが、この試合でトゥットが得点したことによりやっと反撃の狼煙を上げることができた、そう考えている。「体調は100％ですし、自分の持ち味は爆発力ですのでこれからも常に出して生きたい」（試合後の会見より）とトゥット自身が言っているように、毎試合持っている技術やスピリットをプレーに出してくれれば、そしてコンビネーションが今以上に上がってくれば、得点の機会はもっともっと増えてくるはずだ。そしてトゥットが加入したことによりはじき出される格好となった、他のFW陣の奮起も見逃せない。高橋泰や横山聡などここまで結果を残せているだけに、チャンスを逃さないでほしい。

　他のポジションを見ても、後半に失点を重ねる悪癖も前回書いたようにDFの意識を変えることによってここ２試合は完封できているし、最終ラインもここまでほぼ不動のメンバーでやっていることもありコミュニケーションはしっかり取れてきていると思う。MF陣も、左MFは開幕から喜名哲裕が先発していたが、最近は久永がスピードを生かしたドリブルや、機をみてエリア内まで入り込んでくる積極的な動きでスタメンを奪っているし、セントラルMFも氏家英行が豊富な運動量を武器に攻守に存在感を出し、金澤慎や斉藤雅人などと激しいレギュラー争いをしている。

　控えにも第19節水戸戦で得点を決めたMF島田裕介や、守備力が高く右足からのFKも武器の木谷公亮、第20節横浜FC戦で今季初出場を果たしたMFディビッドソン純マーカスなど、状況に応じて出せる選手たちが揃ってきた。ここまで出場機会のない選手たちも、今後チャンスを生かしてこの中に名を連ねてくるだろう。

　長いリーグ戦、誰しも調子を崩す時期はきっとくる。チームとして空いた穴は、チームとして埋めなければならない。決定力不足を埋める１ピースは、この日埋まった。しかしこれで完成ではない。これから別の部分で、何かが欠けてしまうこともあるだろう。そのときにすぐ他のピースをはめられるようなチームになってほしい。

　試合が終わり、選手たちが挨拶をしてベンチに下がるところまでをじっと見つめていた少年が、父親の方へ振り返りこう言った。「初めて２点取ったねぇ」。ちょっと胸が痛かった。まだまだリーグ戦は続く。この少年にもっともっとゴールシーンを、選手たちの喜ぶ姿を見せてあげてほしい。