広島県内と岡山の朝鮮学校で編成した北朝鮮応援団

視線は新たな目標に。北朝鮮、韓国、全ての日程を消化。
アテネ五輪女子サッカー・アジア予選　３位決定戦　北朝鮮女子代表vs.韓国女子代表

2004年4月26日（月）15:45キックオフ　広島ビッグアーチ　天候：曇りのち雨
試合結果／北朝鮮女子代表５−１韓国女子代表（前３−１、後２−０）
得点経過／［北朝鮮］イ・ジャンミ（２分）、リ・クムスク（32分）、［韓国］パク・ウンソン（39分）、［北朝鮮］リ・ヒャンオク（40分、71分）、オ・クムラン（88分）


取材・文／中倉一志

　日本との激しい戦いを演じた北朝鮮。中国の厚い壁の前に１−０で惜敗した韓国。中１日という疲労はもちろん、五輪出場という目標を果たせなかったメンタル面での疲労は相当なものだろう。しかも、アジア代表チームの２つが決まってしまった後での３位決定戦は、五輪予選という観点だけで見れば、ほとんど意味のない試合。両チームにとってこの試合に対するモチベーションの持って行き方が難しかったことは容易に想像がつく。

　しかし、試合はそんな心配をよそに好ゲームになった。スコアこそ５−１と北朝鮮が韓国を寄せ付けない結果になったが、チャレンジャー精神を発揮して最後まで食い下がる姿勢を見せた韓国と、準決勝の先発メンバー11人そのままに、力をセーブすることなく韓国を迎え撃った北朝鮮の戦いは、清々しささえ感じられた。どんな状況にあろうと、精一杯戦うことが自分たちがサッカーを続けてきた証、そして、対戦相手への敬意。そんなスポーツマンシップにあふれた試合だった。

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キックオフ前の韓国サポーター。数では負けたが気持ちでは負けては いなかった。

　開始直後の２分。いとも簡単に北朝鮮が先制点を挙げる。しかし、韓国はひるむことなく北朝鮮に勝負を挑んだ。この日の韓国は変則の４−３−３システム。最終ラインは３バックシステムで臨み、北朝鮮のエース、リ・クムスクには１人あまったホン・ギョンスクが影のようにどこまでも付きまとう。中盤はワンボランチにファン・インソン、左サイドにチャン・ジョンスク、そしてトップ下にイ・ジャンミが入る。前線ではパク・ウンソンとチャ・ヨンヒが２トップを組み、これに右サイドの高い位置に構えるジン・スクヒが加わる。

　とりわけ、リ・クムスクに対する警戒心は相当なもの。ホン・ギョンスクが付ききれないと見るや、右ストッパーの位置に入っていた177センチの長身プレーヤー、パク・ウンソン（選手登録はＦＷ）とホン・ギョンソクの役割を入れ替えてエース潰しに努める。まだ10分も経っていない。そしてマイボールはロングボールを放り込んで、そのこぼれ球をイ・ジャンミが拾い、豊富な運動量と高い個人技を武器にして起点を作る。攻めの中心は右サイド。このあたりは日本同様、スカウティングの結果だろう。

　韓国の作戦が功を奏して試合はがっぷり四つ。一進一退の攻防が続く。試合が動き出したのは25分を過ぎた辺りから。北朝鮮得意のクロスボールが韓国ゴール前に供給される回数が増えていく。そして32分、とうとう膠着状態が崩れた。右からのアーリークロスにリ・クムスクがフリーで合わせてゴールネットを揺らしたのだ。どこに行っても付いてくるパク・ウンソンのしつこいマークをかいくぐってフリーになった時点で勝負は決まった。

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終始、大声援でチームを鼓舞した北朝鮮応援団。その迫力は国際 試合ならでは。

　２失点を喫した韓国は、パク・ウンソンを本来のポジションである前線へ。代わりにチャ・ヨンヒがリ・クムスクのマークに付く。そして39分、パク・ウンソンが反撃ののろしを上げた。ハーフウェイラインを少し越えたあたりでボールを受けると、ＤＦに囲まれながらも強引にドリブルを開始。あれよ、あれよとペナルティエリアに侵入すると、ワンフェイクを入れてＤＦをかわして右足を一閃。目にも留まらぬ豪快なシュートがゴールネットに突き刺さった。

　しかし、さすがは北朝鮮。その直後の40分にはＣＫのチャンスにリ・ヒャンオクが合わせて、すぐさま流れを引き戻す。そして後半に入ると怒涛の攻撃を繰り出した。健闘を見せていた韓国は少しずつ北朝鮮のスピードに置いていかれるシーンが目立ち始める。必死に北朝鮮の攻撃を跳ね返すものの、カバーに次ぐカバーで陣形は乱れ、組織が崩れる。いつしか、リ・クムスクのマークがルーズになっていく。こうなっては北朝鮮の独壇場だ。

　中盤でのパスカット、前線への球出し、そしてゴールを狙うプレー。リ・クムスクの自由奔放なプレーが韓国を追い詰めていく。そのプレーに導かれて、北朝鮮の攻撃は時間を増すごとに迫力を増し、セカンドボールをことごとく拾っては、韓国が自陣から出ることさえも許さない。そして71分にリ・ヒャンオクがミドルシュートを決めて４点目をゲット。終了間際の88分にも、ユン・ヨンヒのクロスにオ・クムランが合わせてだめを押した。

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	韓国が中国、日本、北朝鮮の３強と肩を並べる日は遠くない。

　北朝鮮の強さが際立った試合だった。立ち上がりこそフィジカルコンディションに問題が感じられたが、結局はメンバー交代も行わず、最後は韓国にフィジカル面での違いを見せつけて一方的に攻め立てた。相当鍛え上げられているという印象が強く感じられた一戦だった。この北朝鮮に３−０で勝利した日本のたくましさが改めて感じられるほどだった。

　一方、実力の違いを見せ付けられた格好になったが、最後まであきらめずにチャレンジし続けた韓国の頑張りもまた際立った試合だった。特にトップ下のイ・ジャンミの豊富な運動量と高い技術が目を引いた。彼女を中心に、押し込まれながらもわずかな隙さえあれば攻めあがろうというチャレンジ精神は、今後、韓国が中国・日本・北朝鮮のアジアの３強に割って入ってくる可能性を十分に感じさせるものだった。

　北朝鮮、韓国ともに五輪出場の夢は破れた。しかし、打ちひしがれていても何も生まれない。彼女たちにとって準決勝の終わりを告げるホイッスルは、新たな挑戦の始まりを意味する。そして、この試合で彼女たちはその姿勢を示した。今回は日本が両国を一歩リードしたが、その優位性が将来にわたって保たれる保証はどこにもない。今後、五輪、Ｗ杯出場を巡っては、韓国を含めた極東の４カ国の間で激しい戦いが繰り広げられることになるだろう。そんなライバルたちの戦いぶりに、改めて気の引き締まる思いがした。