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第82回全国高校サッカー選手権大会 ２回戦 武南高校vs.京都朝高
2004年1月2日（金） 12：10キックオフ 埼玉スタジアム2002 観衆：8.566人 天候：晴
試合結果／武南２−０京都朝高（前２−０、後０−０）
得点経過／［武南］泉（16分）井上（34分）
取材・文／砂畑 恵
「乗り換え駅は東川口ですか？」。南浦和駅でご年配の男性にこう尋ねられて、一瞬だが考えてしまった。日頃からよく行くために降車駅では勝手に動く。改めて尋ねられると戸惑うものだ。その男性は地元・武南の応援がてら、埼玉スタジアムを初訪問されることになったようだ。東川口で埼玉高速鉄道に乗り換え浦和美園駅へ。昇降階段は人でビッチリ埋まった。それでも、「京都からじゃ遠いし、京都朝高を応援の方は少ないだろうなぁ」とスタジアムへ向かう。なんとなくちらほらと赤い服を着た人が目立つことが気になりながら。スタジアムに着くと、京都朝高のテントが張られ、そこには赤い人々が集結していた。
戦後に限定すれば、埼玉は都道府県別の最も多い優勝回数（12回）を誇っている。その中の１回は武南であり、準優勝の経験も１度ある。ここ最近は武南どころか埼玉勢自体が優勝からは遠ざかっているが、ベスト８、16まで勝ち上がってくる常連ではある。
その武南に挑むのが初出場の京都朝高。かつては外国人学校など各種・専門学校が大会への資格が認められていなかった。その根底には民族的な問題も横たわっていた。様々な人の働きかけにより困難をクリアーして、大会への出場資格を得たのは1995年のことである。2000年に大阪朝高が外国人学校として初めて選手権に出場を果たし、今回の京都朝高は２校目。京都朝高は同校の人々は勿論、在日コリアン挙げての熱い声援を受けているのだ。
その期待に応えようとするかのように、京都朝高は立ち上がりから急襲を掛けた。林宏行が武南陣内でボールカット。李晋鉉のクロスはDFに跳ね返されるが、そのボールを拾った金相賢がシュート。ボールはクロスバーを直撃し、チャンスを逸する。その時間、開始わずか２分。京都朝高の意気込みが伝わって来る。10分には林宏行の鋭いミドルシュートが相手に当たり右ポストをかすめるように通過した。
クロスバー直撃のシュートは武南をヒヤリとさせただろうが、動揺した様子はなく、こちらも真っ向勝負。泉のドリブル突破から京都朝高ゴール前にクロスが上げられる。お互いが烈しく身体をぶつけ一歩も引けを取らない。序盤にして見る側も高揚してくる。
そんな展開で進んだ16分、泉のパスを受けた荒井が、高速ドリブルで京都朝高DFラインを破ってGKと１対１となる。荒井のシュートをGK鄭昌樹は片手でセーブするが、そのこぼれ球には攻撃の起点となった泉。泉がボールをプッシュして、武南が先制点を挙げた。
先に失点を喫した京都朝高だが、この頃から被ファウルが多くなる。パワフルなボディーコンタクトに耐えかね、武南の選手が堪らずファウルを犯す回数が増えたのである。京都朝高の身体の強さということに、武南の大山監督さえも「自分の想像していた以上」と話していたのであるから、体感していた選手にとっては脅威だったに違いない。武南は冷静さに欠き、無謀なアプローチで相手を止めてしまう。しかもFKを蹴る金尚徳のボールは素晴らしい軌道を描いた。22分、金尚徳のキックは４枚の壁を越えて右ポスト付近にいた孫民哲の頭へ。孫民哲のヘッドはわずかに逸れるが、京都朝高の応援団から大きな歓声が上がる。25分のFKも、金尚徳−孫民哲のラインから武南のゴールを脅かした。
やや押し込まれ掛けた武南だったが、27分の井上のシュートで流れを引き戻す。京都朝高の右サイドを突破した泉からのマイナスのパス。井上が振り抜いたシュートはGK鄭昌樹がナイスセーブ。これを機に再び武南が攻勢になる。31分には京都朝高のFKをDFがクリアーミスし、至近距離のシュートをGK石長が凌いだシーンもあったが、ペースは武南。そして34分に武南は２点目をゲットした。泉のゴールラインの辺りから戻されたボールは難なくDFが処理するかに見えた。だが京都朝高の守備陣はボールウォッチャーになってしまい、あと１歩が出なかった。ボールは井上まで到達し、ダイレクトで迷いなく打たれたボールはネットを揺らす。京都朝高とすれば一瞬の虚を突かれた格好となった。
後半もまた、京都朝高のシュートから幕を開けた。41分、京都朝高のCK。CKはGK石長が弾いたボールを金成洙がミドルシュートを放つが、またもわずかに右に外れた。対する武南も42分、荒井のドリブル突破から井上がすかさずシュート。後半も目まぐるしい展開となるかに思われた。
しかし予想に反しゲームは武南のペースに落ち着く。２点のビハインドを跳ね返すそうと、京都朝高はDFラインを高くしていた。武南はその背後にポイントを定める。ロングボールで、素早くボールを動かしてスルーパスと、京都朝高の裏を裏をとボールを送った。先に挙げた２分のシュート場面もそうであり、その後の50分の太田のミドルは前線への長いパスからのもの。12、16分のオフサイドも京都朝鮮のバックを１発狙ったスルーパスで、紙一重のところであった。
どっしりと受けて立つ武南に京都朝高はなかなかリズムに乗れない。武南は前半と同じようにファウルは多かったが、ゴール近い位置では与えなくなっていた。逆にファウルでゲームが切れる分ペースを上げることが出来ず、相手ボールになればカウンターを受け、急いで引かざるを得なくなったことも原因していよう。選手交代で中盤に変化を持たせたが思ったような効果は上がらなかった。それでも相手ゴール前に迫った時のミドルシュートは強烈で、59分にもDFのクリアーを拾った金相賢の一撃も外したとはいえ、そのパワーには目を奪われた。
終盤に入ってくると京都朝高が盛り返す。武南は24分には荒井が、25分にも田原が京都朝高のバックラインを破り、GK鄭昌樹と１対１となる場面もあったのだが、GK鄭昌樹の冷静なプレーでゲームを決定付けるだろうゴールを阻止した。GK鄭昌樹のプレーは味方を元気付る。69分の李晋鉉のミドルシュートを皮切りに、最後の怒涛の攻めが始まった。71分には左サイドをドリブルで駆け上った金徹昊がクロス。そのボールに金日宇が飛び込んだが、ここは神が相手に競り勝つ。34分のFKも金尚徳の正確無比なボールが孫民哲の頭を捉え、武南を慌てさせた。77分には連続攻撃で武南ゴール前を襲う。その流れの中で、金日宇のクロスから林宏行がシュートを放つ。GK石長は必死の形相で防ぐ。跳ね返されたボールは金宏鎮の足元へ。一斉に詰める武南守備陣。金宏鎮はシュートタイミングを失った。そしてタイムアップ。京都朝高、いや在日コリアンの願い、全国大会の初勝利は後輩に託された。京都朝高のプレーを見るに付け、その日が遠からず来るように思える。
