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2003Ｊリーグ ディビジョン２ 第44節 アルビレックス新潟vs.大宮アルディージャ
2003年11月23日（日）13:05キックオフ 新潟スタジアム 観衆：42,223人 天候：曇時々雨
試合結果／アルビレックス新潟１−０大宮アルディージャ（前１−０、後０−０）
得点経過／［新潟］上野（10分）
文／中倉一志
その瞬間、スタジアムから割れんばかりの歓声が上がった。ピッチの上で誰かれともなく抱き合うアルビレックス新潟関係者。そして、「アルビレックス、アルビレックス」の大声援がスタンドにこだまする。昇格をほぼ確実にしながら産みの苦しみを味わった第４クール。勝利の美酒は最終戦までお預けになった。そして迎えた44節。最後は新潟に大きな力を与え続けたサポーターの前で勝利した。アルビレックス新潟は遂にJ1への扉を開いた。
「燃え尽きろ。男になれ」。反町監督は、そういって選手たちをピッチに送り出したという。その言葉に応えるように、新潟イレブンは立ち上がりから積極的な姿勢を見せた。２分、ファビーニョ、上野とつないで得意のカウンターを仕掛け、最後はマルクスがヘディングシュート。さらに７分、鈴木が左サイドをドリブルで突破。絶妙なクロスをゴール前に供給する。大宮の必死のDFの前にシュートは打てなかったが、立ち上がりからチャンスを作る。
そんな気持ちが結実したのは10分のことだった。マルクスの直接FKがペナルティエリア内にこぼれる。そこへ飛び込んでいく栗原。さらにはファビーニョ、上野、マルクス、高橋が続く。大宮のゴール前は十分にDFの人数が足りている。しかし、それをこじ開けるように５人が絡む。最後に流し込んだのは上野。やや右よりの位置から放ったシュートは当たりこそ弱かったものの、GKの右側をすり抜けてゴールマウスに吸い込まれた。泥臭い、しかし、気持ちの入ったゴールだった。
川崎との勝ち点差を考えれば、新潟のJ1昇格は引き分け以上で決まる。しかし、新潟は攻撃の手を緩めない。「ホームで勝ってJ1へ」。ピッチの上のイレブンも、ベンチも、そしてサポーターも思いは同じだ。高い位置から積極的にプレスをかけてボールを奪い、マルクス、ファビーニョ、上野の３人が抜群のコンビネーションで切り替えの早いカウンターを繰り出す。左サイドからは鈴木が駆け上がってアクセントをつけ、山口は高い位置でボールを捌く。これまで積み上げてきたものを全てぶつけるように試合を進めていく。
試合のペースは新潟が握っている。しかし、この日の大宮も決して出来は悪くはない。新潟との対戦は過去３戦全敗だが引いて守るという気配はない。積極的に挑んで勝利を目指す強い気持ちが伝わってくる。新潟の前からの圧力の前に押し込まれるシーンが目立つが、落ち着いて凌いで反撃の機会を待つ。狙いは高さを生かした攻撃。右サイドに張る盛田とキープ力のあるバレーにボールを集めて新潟の隙を窺がう。ここのところ４連勝している自信がそうさせるのだろう。
大宮に決定機が訪れたのは36分。左サイドの盛田から裏へ飛び出した村田へ。その折り返しに伊藤が左足で合わせる。思わずどよめく新潟スタジアム。しかし、ボールはわずかに右へそれた。そして43分、右サイドに流れたバレーが起点になると、新潟のペナルティエリア内に４人の選手が飛び込み、さらに後方からも１人、２人と飛び出してきた。しかし、随所に気迫溢れるプレーを展開した新潟は、このピンチに８人が戻ってゴールを死守。前半を１−０で折り返した。
試合の流れは新潟。前半はボールキープ率でも上回っていた。しかし、大宮は落ち着きを失わず、それどころか、どこか不気味な雰囲気すら漂わせていた。そして後半、その大宮が反撃を開始する。奪ったボールを前線に長いボールであわせてきたのだ。制空権は大宮。新潟はやがてラインが下がり始めた。前線とDFラインの間に空くスペース。このスペースを氏家と大家が支配して試合の流れは大宮に。新潟にとっては悪い流れが続く。
新潟にとっては最後の産みの苦しみだ。ここで頑張りきらなければ、掴みかけたJ1昇格の夢が消えていく。スタンドをオレンジ一色に染めたサポーターの声援が一段と大きくなる。「一緒にJ1に行くんだ」。そんな思いが選手に届く。62分、63分、そして64分と立て続けに決定機を作り出した。その後も、大宮のハイボールに苦労した。ピンチの場面が何度も訪れた。しかし、ここぞというところで気力を振り絞って決定機を作る。ゴールは生まれない。しかし、この気迫が大宮に傾きかける流れを何度も断ち切った。
大宮は62分に投入した黒崎に加えて、43分には磯山を伊藤と代える。パワープレーで強引にゴールを奪いに行くかまえだ。ロスタイムは３分、新潟にとってはいよいよ最後の頑張りどころだ。この日、テクニカルエリアに出なかった反町監督もベンチを飛び出して指示を送る。強引に攻める大宮。11人が協力して大宮の攻撃を跳ね返す新潟。そして選手を後押しするビッグスワンの大声援。スタジアムの熱狂は最高潮に達した。そして試合終了を告げるホイッスル。スタジアムに歓喜の渦が巻き起こった。
「21世紀の新潟におけるお伽噺の第１話が完結した。新潟にとっては、これから第２話が始まる。さらなる発展を期待して止まない」。記者会見で、反町監督は開口一番、そう語った。「サッカー不毛の地」と言われた新潟で成し遂げたJ1昇格の夢。それは選手、監督、オレンジ一色のサポーターをはじめ、チームに関わる全ての人の手で実現したものだ。未知の世界であるJ1での戦いがどうなるのか、まだ誰にも分からない。しかし、この熱狂的な支えが続く限り、新潟は第１話同様、素晴らしい物語を記していくことになるだろう。
