レイナス大健闘もベレーザが女王の貫禄を見せる。 　取材・文／中倉一志

第24回全日本女子サッカー選手権大会　準決勝　日テレ・ベレーザvs.さいたまレイナスＦＣ
2003年1月25日（土）11:00キックオフ　西が丘サッカー場　観衆：489人
試合結果／日テレ・ベレーザ１−０さいたまレイナスＦＣ（前０−０、後０−０、延前１−０）
得点経過／［ベレーザ］戸崎（98分）


　ベレーザの猛攻に耐えに耐えたレイナスの守備網がついに破られた。時間は98分、延長前半が終わろうとしていた時間帯だった。レイナス陣内、右サイドの深い位置で直接ＦＫのチャンスを得たベレーザは小林がゴール前へ放り込む。ゴール前に飛び込むベレーザの選手たち。それを跳ね返そうとゴール前に壁を作るレイナスの選手たち。そして、密集地帯の中でレイナスのクリアボールがこぼれた。そのボールに飛び込んできたのは戸崎。振り抜いた右足から放たれたシュートがゴールネットを揺さぶって延長戦に決着をつけた。

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　試合は中盤で激しくプレッシャーを掛け合う展開で幕を開けた。ともにコンパクトなゾーンを敷く両チームは、相手ボールにしっかりとプレッシャーをかけてチャンスの芽をつぶしていく。時折、プレスをかいくぐってゴール前まで迫られても、堅実な両チームのＤＦラインは決してチャンスを与えない。ともにがっふり組み合った試合は緊張感溢れる立ち上がりを見せている。そんな展開の中、最初にリズムを掴んだのはレイナスだった。

「前から！前から！」田口禎則監督（レイナス）がベンチサイドから大声で指示を飛ばすと、その指示に応えるようにレイナスイレブンがベレーザを上回る出足の良さで中盤のボールにプレッシャーをかける。ベレーザの起点となる小林、さらには両サイドから攻撃参加しようとする四方、窪田を素早く囲い込み決して前を向かせない。そして高い位置でボールを奪うと、バランスを崩したベレーザの中盤のスペースを利用して、素早く攻撃を仕掛けていく。

　その攻撃のリズムは軽快だ。ボールを持って前を向くと、ボールを持たない選手たちが一斉に動き出してパスコースを確保、常に両サイドのスペースとＤＦラインの裏側を意識して、効果的にスペースを突いてチャンスを作っていく。しかし、女王ベレーザも最後の砦は渡さない。中盤の底でカバーに走り回る酒井と高い集中力を見せる最終ラインは、堅牢な守備網を敷き決定機を与えること許さない。「（レイナス）頑張っているとはいえ、まだまだ負けるわけにはいかない」（宮村正志監督・ベレーザ）。そんな気持ちが伝わってくる。そして０−０のまま試合は後半に折り返した。

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　しかし、後半に入ると試合のリズムがガラリと変わる。風の影響と、やや運動量の落ちたレイナスの中盤のプレスが緩んだことに乗じてベレーザが本来の力を発揮し始めたのだ。その中心となったのは小林弥生。「前半は持ちすぎたりミスも目立ったが、プレーしているうちに段々楽しくなってきた」という小林は、最前線から中盤の底まで、さらには左右に自由に動き回ってボールの起点を作り出す。その巧みにスペースを見つける戦術眼と、両足から繰り出される華麗なパスがベレーザの持つ高い能力を引き出していく。

「後半はずっとうちのペース、得点は時間の問題かなと思っていた」（宮村監督）というベレーザはレイナスを自陣内に封じ込め、次から次へと襲い掛かっていく。レイナスのベレーザを捕まえる位置が前半と比べて明らかに下がってきているのが分かる。だが、レイナスの集中力は途切れない。今シーズンのＬ・リーグではベレーザ相手に２敗したとはいえ、いずれも１点差。上位リーグのホームゲームでは０−０で引き分けてベレーザの連続得点記録を３年ぶりにストップさせた。そんな自信がプレーに表れている。

　怒涛の攻撃を見せるベレーザ。高い集中力を発揮して、その攻撃を跳ね返していくレイナス。ともに譲らぬ緊張感溢れる試合は時間が経過しても変わることはない。やがて試合は延長戦に突入したが、それでも流れは変わらぬまま。こういう試合はえてしてミスがらみで試合が決まるものだが、両チームともミスを犯すことなく自分たちの力をフルに発揮して戦っていた。しかし、迎えた延長前半８分、とうとうベレーザがセットプレーからチャンスを作り、レイナスを押し切ることに成功した。

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「女子の王者といわれるチームに、こういうゲームが出来たっていうのは自信になります。ぜひとも、この自信を今度は向上心に変えて勝たせてやりたいと思います」。記者たちに囲まれた田口監督は満足げな表情を浮かべて、こう語った。持てる力をフルに発揮して戦った試合。レイナスにとっては敗れたとはいえ、今大会のベストゲームであったことは間違いない。しかし、接戦を演じられはしたがベレーザとの間に力の差があるのは明らか。後半にシュートを２本しか打てなかったことが、それを物語っている。

　そのあたりは、田口監督が一番知っていることだろう。「まだ11人と、その下の選手との間にレベルの差がある。チーム内のポジション争いをすることによって、個々が能力アップするようなチームにしたい」と語る田口監督。そして、「（監督を）受けた以上は頑張らなくちゃいけない。環境の悪い中で頑張っている選手を見ると放っておけない」と続けた。田口監督が来シーズン、どんなチームを作るのか楽しみだ。

　一方、レイナスの頑張りの前に中々ゴールが奪えず、ようやく延長戦で勝利をものにしたベレーザ。「レイナスさんも力をつけてきているんで、１点勝負にはなるって思っていました」と宮村監督は試合を振り返ったが、そんな試合を慌てることなく落ち着いて戦い、押し込まれていた前半を堅い守備で乗り切ったことが勝利につながった。押されているようで肝心なところは崩させない。レイナスの挑戦をしっかりと受け止めての勝利は、さすがはＬ・リーグチャンピオンといえる。

　そんなベレーザは、いよいよ２冠に王手をかけた。全日本チャンピオンの座をかけて争うのは田崎ペルーレ。ともに女子サッカー界を牽引する強豪との対戦だ。Ｌ・リーグでの対戦成績は１勝１分だったが互いの力に差はない。女王の座をかけた戦いは厳しい戦いになることが予想される。「後はやるだけ。細かいことはもちろんあるが、勝ちたいという強い気持ち、それが勝負を分ける。選手もそれはわかっている」と宮村監督は決意を語った。

※このレポートは「fantasista online magazine 2002CLUB｣に掲載されたものです。